■「空気が読めない」と言われても
僕は昔から、人の気持ちを読み取るのが苦手やった。
よく言われる。「空気読め」って。
でもな、それって、無理やと思うねん。
空気って、無色透明やん?
文字も書いてへんし、形もない。
「見えへんもんを読め」って、どないせえっちゅう話やろ。
僕にとって空気は、「説明されてない情報のかたまり」。
つまり、“言われてないことはわからん”ってことや。
悪気はない。ただ、ほんまに見えへんだけなんよ。
■「やる気ある?」──その一言で、全部が崩れた
ある日、新人教育を担当していたときのこと。
その子はめっちゃ優秀で、仕事も丁寧やった。
正直、ずっと長く続けてほしいと思ってた。
仕事終わりに、何気なく声をかけた。
「ちょっとええか?……やる気ある?」
新人は一瞬固まって、それから視線をそらして小さな声で言った。
「……はい。あるつもりですけど……」
僕は軽くうなずいて、それだけ答えた。
「ならよかったわ。」
……そのときは、それで終わったと思ってた。
でも、そのあとすぐや。
主任のAさん(頼れる姐御肌で、普段は優しいけど言うべき時はズバッと言う人)が小走りでやってきて、僕の前で立ち止まった。
その表情はピリついていた。
「ぴーさん、さっき新人に“やる気ある?”って言いましたよね?」
僕は戸惑いながら答えた。
「ああ、うん。なんかまずかった?」
Aさんは眉をひそめて食い気味に言った。
「まずいですよ、それ。
あの子、“私やる気ないように見えてたのかな…”ってすごく落ち込んでましたよ。」
「ぴーさん、あの言い方はあかんです。
あれ、詰問にしか聞こえませんよ。」
心臓がドクッと鳴った。
「えっ、えっ、えっ、いやいや違う違う。そういうつもりやないって。
ずっと続けてほしいと思ってて、その気持ちを確認したかっただけで……」
Aさんは少し目を細めて、でも冷たくはない声で言った。
「ぴーさんの気持ちはわかります。でも、それはぴーさんの中の話であって、
言われた側は“責められてる”って感じるもんなんですよ。」
「善意なのはわかってます。でも、あの子はぴーさんより立場が弱いんです。
言葉の選び方、もう少し気にしてあげてください。」
僕は言葉が出ず、うなずくしかなかった。
「……あぁ、そうかぁ。ごめん、気づかんかった。」
■謝罪と、伝えることの難しさ
すぐに、新人の子に声をかけて伝えた。
「さっきの話な、言い方を完全に間違ってた。
君が優秀やから、ここで長く続けてくれたらええなと思ってて。
それで、ちゃんと気持ちを聞いときたかっただけなんよ。」
「でも、不安にさせてもうたんやったら、本当に申し訳ない。ごめん。」
新人は驚いた顔をしたあと、少し笑って言った。
「……そういう意味だったんですね。
私、怒られてるのかと思って、びっくりしてました。
話してくれてありがとうございます。」
■気持ちが読めないなら、言葉で伝えるしかない
この出来事は、僕にとって忘れられへん教訓になった。
空気を読むのが苦手なら、言葉で補うしかない。
今ならきっと、こう言う。
「○○さん、いつも仕事すごく頑張ってくれててめっちゃ助かってんねん。
もし気持ちがあるならさ、この先も長く続けてくれたら嬉しいなって思ってるんよ。
その気持ちを、ちょっとだけ聞かせてもらえへん?」
遠回りやけど、その方が伝わることもある。
■「気持ちが読めない」は、欠点だけじゃない
気持ちを読める人はすごい。
でも、読めない人も、生きていく方法はある。
それは、言葉を使うこと。
察する代わりに伝える。
わからないから確認する。
空気が読めない人間にこそ、
丁寧な言葉を使う強さが必要なんやと思う。
💬読者のみなさんへ
善意で言った言葉が誤解されたこと、ありませんか?
「気持ちが読めない」ことは欠点ではなく、
「伝え方を学ぶチャンス」かもしれません。
もし同じような経験があれば、
コメントで教えていただけると嬉しいです。
👣次回の記事:「“普通”って、どこに売ってますのん?」